world
轟きの撃ち出す鉛の雫
溶けたチーズ
溶ける今日
小さな夢は破れるけれど
絶望をせき止める希望なら辛うじてつかまえてる
アラーム 琥珀の味
解き放たれた家畜の見る 100万分の1の天国
霞の充満する背景に切り込んだセロファンの太陽
彼女の訪れに 敬服を帯びた一礼を
檸檬水を浸した香しい微笑み
淡く揺れる
去りゆく夕暮れ
全てが紅に染まるなか 彼女だけが蒼白のまま
クオーツはダイアモンドへ
廃水は泥濘へ
二極化する時間に踏み込む
浮かぶのか 沈むのか
樹脂の水溜り
プラスチックのグラス
壊れないための「壊れる」
解けない生命の結び目
乖離
身体を巻き込む熱
木々は揺れるのに風は訪れない
架空電子音
無神経の研ぎ澄まされる昼間の空気
午睡の幻惑に脅かされながらグラスを傾け
濡れた舌に現を見る
画面のなかで笑う幼子は 容易く幸福を呼んで
空の灰色も銀を帯びた
耳で計る心音
黒いコードに繋ぎとめられた意識
ビート 鋭い声 ゆらゆら沈む感覚
旋律が呼ぶ旋律
外界の文句と ここにある平穏
胸を打ち あばらを伝って流れる粒子
君のための歌ではなかったとしても
この身体の内に捕り込まれたものすべて君のもの
気まぐれに下界を訪れた空は、濡れた庭に青を残していく。置き去りにされた花たちはしきりに寂しさを訴え、見かねた空がまたやってくる。柔らかな結晶のような身体を借りて。
早まる機械心臓の鼓動
空気は揺さぶられても 木々は穏やかな微睡を保っている
ガスのうなり声を突き刺してこの肌まで届く冷たい水分子
夏の野菜のように中から張り詰めて
皮膚のすぐ下にわだかまる煙を 吐き出してしまいたい
子ども番組を眺めながら齧ったトーストには 蜂蜜とマーガリン
ねじれた思考が 貴い石のように愛でられる国を 創造できたらいい
美しさの失われた場所で
雷鳴は午後の階段を駆け下りた
静かに続く雨
祈りを誘うニュースと遅れた注意報
水浸しの街に未来を夢想する
濁流は夢のなかでまでしきりに世界を洗っていた
arca di Noeの乗船切符が欲しい
溺れる身体を抜け殻にして 黄金の街路で遊びたい
今日も末端から溶けていく
届いた箱の内容物は 衣類 靴 楽譜 CD
極彩色の陽気は八月によく似合う
東からの光を受けながら 夕焼けを願っていた
おかえり
音階を昇降してはビブラートの扉を一つひとつ閉めていく
色彩の存在する部屋にたどり着くのはいつ
フルウトから零れる生き物は 微風に巻かれ回転して
久しぶりの晴天を呼んだのは おそらく
両足の虫さされ
絡まった糸くずのような死骸
私の血液は命にならずにフローリングへ散った
壊れかけの洗濯機の轟音に脳を揺さぶられて
全身を冷却したい願望に突き動かされる
翅を擦らせる虫たちから欠伸の鳥へと朝が渡る
紙に注がれるスポットライトは次第に息をひそめ
赤いインクが青味を帯びる
君に洗われたひとの語る戒めは
銀河ひとつ分のメルクマールを4頁(ページ)に閉じ込めた
しなやかさが欲しい
囁きのような祈りが天井をすり抜ける
繰り返す警告音/「もう首まで来ています」/凍死する樹脂のからだ/骨を突き破って咲くハナミズキ/私は苦しくなんかないのに