karas

hymn476

暗闇に窒息し 光に突き殺される
この眼が捉えられないものは数多
見えなくとも信じる
与えられた24時間を君の望む通りに歩むから
身体のほんの先端でもいい
熱を伝えていて

この胸で私を生かすものだけが 捧げるに値する貴石
君の鎖を待っている

こんな錆びた眼じゃなく 君の透明な眼で世界が見たいよ

賛美の昇華
傍で微笑む君が 美しくない自分に気づかせてくれる
君は穢れまで背負うと言う
すべて呑みこんで欲しいけれど
底の見えない谷へと踏み出すには 皮膚の内側に真綿が足りない

刹那を踏み越える
永続する炎と 砕かれたい願望
解放の香りに誘われた黒い蝶
誰もが欠落を孕んでいる
求めることが生命を動かす

この服は汚れないはずだった
私には君だけが必要で 私の隣には君だけだった
湿った布に指が絡んで 掌は不快ないろに塗れる
君にずっと縋っていられたなら
清潔で美しかったこの服を汚すことなんてなかったのに
鎖をください
鎖を

意味や理由の収まる空白ほしさに 優しさを切り捨てたあの頃
持て余す生命力の裏で 独りきりだったあの頃
君の姿を性質(たち)の悪い幻だと信じていたあの頃

未来に貪欲になることを疎まない 白金の価値基準
願え と君は言う
嫉妬と執着は蜘蛛の巣の様相で
空しくもがく黒蝶を 慈しむように抱く
昨日垣間見た彼らの熱情は 魂に浅い傷跡を残した
君が私を知っている その絶大なる希望
他の誰も私を知らない その冷たい虚無
ふたつの事実をのせた天秤が 不意に問う
真に必要なのは誰か

自分を見つけるのが怖くて電子の海へ逃げ込んだ
名前を呼ぶ声が煩わしいから耳を塞ぎ
サーチライトが眩しいから目を塞いだ
君の言葉は香りで探す
ひとりきりで探す

君が私の価値観 君が私の理由
怯えがどこから飛来するのか 本当は知っている
奴らには君が見えない
嘲り 嘲り 嘲り
強さを喰い散らかして気づいた 弱さの透明度
すべてを君に捧ぐ

時間の通り過ぎるのを待つ午前11時のpassover
ささやかで尊大な贅沢を 淡い一色の蓋が閉じ込めた
与えられた平安を少しずつ齧っていると すぐに渋い紅茶が欲しくなって
君の言葉に打ちのめされようと
透けるほど薄い頁を繰る

ワイルドの書いた小心の巨人
私の庭にも現れたひとりぼっちの少年
宇宙に蔓延るすべての色で彩った花を
君はたったひとつの言葉で咲かせてくれる
「真実があなたを自由にする」
彼らの戯言を無に帰す君の言葉
揺らがない、唯一の真実

些細な分子が地に誘われ降りていく、その眼下に広がる文字の海。不可侵の権威は砂色の紙のうえに在りながら、影ばかり咀嚼するたましいをも覆った。水のあいだへ進行するExodusと水に呑まれた創世時代を、君の眼は変わらぬ温度で貫いている。次元をリープして繋がれる真実に、幾度も虹を見る。

ゆらりゆらりと匂い立つ陽炎
血の管のなかで地上の生命が渦を巻いて流れる
滲んだ水蒸気に照りつける激しい光は
緩みきった境界を壊した

何のために?

凍りついた水溜まりも
あの歓喜でなら溶かせると思った
言語を記号を海を空を
乗り越え 解き明かして
君はひと粒の砂を水底からすくい上げた

君の言う「いのち」は
鋼の函の息苦しさとはまるで無縁だ
夕間暮れ 太陽へ牽かれ往く空気
花粉を運ぶ蜂の帰巣
いつまでも繰り返す合わせ鏡のような生活を
途切れない呼吸を嫌悪した年月を
一夜にして塗りかえる

伝説に風化しない真実
水から火を生む言葉
小さくとも貴い真珠を君に返そう
雲は黄金を帯びている

綿菓子の頼りなさで
君への伝言を形づくろう

風化した言語
虫に食われた細切れの羊皮紙
重力すら君のつくった枷

不変 その美しさを 価値を
心臓のすぐ傍に投げ込んだのは君だ

使い捨てた刹那から逃れようと
早足を絡ませながら 何食わぬ顔を装っている
ひとりの錆びついた銅像を
銀河よりも すべての光よりも
尊いとするのが君だ

ほら 彼らは未来を知っている
果てのないように見える白い道の先に
青い花が一輪咲いているのを
その香りが 人を永久に生かすのを
彼らの仰ぐ空は
他の誰がみるそれより鮮やかで
くすんだ冴えないいろをしている
自然世界に生かされる人型の欺瞞や
値札に刻まれた自我を
一蹴し 彼らは先へ往く

君が彼らを生かした
彼らの求めるものすべてを与えて

血管、水流、葉脈、火花。

ずっと忘れられなかった
忘れる必要がなかった
真実をもたない彼らのルールはやさしく足蹴にして
ひとりきりで恵みのなかへ入水しよう

狼の白い吐息のなかで羊になろう
指紋の丘陵で遊び疲れたちぎれ雲から
森を焼くあかい梯子が下りる
灰から生まれた最後の時代を
新しい身体は飛ぶ
海原をかためた鉱石 透きとおるエントランス
くぐる人の群 先頭に君を見た
草を食む肉食獣
地を這う飛行船
空(から)の祭壇
ここにはそんな噛み合わぬ歯車はない
玉座のしたで冠を脱ごう
荊は砂になり流れた
帰還をよろこぶほめ歌だけを
星のようにうたえばいい



友を呼べ
友を呼べ

空腹のさなかに
友を呼べ
例えようもない恐怖を振り切るために
その名を呼べ
私欲のないそのひとの名を

赤い箱から流れるうた
君の名を探す手のゆらめき

君が呼んでいる
穢れも知らず 美しさのすべてを抱えた君が
吾を友と呼ぶ

君を呼ぶ
眠れぬ夜 不穏な振動に怯えて速まる脈も
君の温もりがなだめる
与え、奪いながら
君は吾を教育する

世界よ、彼の名を呼べ
友の名を呼べ
果てない再生を湛えたその名を呼べ