karas

賛美

あをぞらに君よあらなむ水銀の泥へ降りける水馬の仰ぐ

蛾に喰われし器官の奥にまもりける碧玉の屑君のみぞ知る

飽食に口の端裂けたる痛みもて名もなき素封家ラザロの指乞ふ

オレンヂの旋律の呼ぶ虹のもと「雲晴らし進め」と君の声聞く

失望のさなかを歩めど君の御業吾(われ)の手牽きて光をくれし

真実の永遠なるを知らざりて殺めし自我に捧ぐ鎮魂歌

忘れらるる棺のごとき閉塞と瘴気を祓へ銀の"Better Is One Day"

幻想に仮の美徳へ曳かれしが君に出逢ひて自由を知りき

波に乗りて鉛の脳へ届きける歌から葡萄のくれなゐ香り

純粋の呼吸を忘るる現(うつつ)から蘇生せしむる君のみにより

杯に満つ水銀嚥下す君の瞳(め)の褪せぬ黄金に浄化の御業

漂ひつつひとの模糊たる輪郭にも宿る不可思議な君の国

新しき身体(からだ)夢見るも現世(うつしよ)に在れと云ふ君の器にならむ

地の塩は渦に呑まれて溶解せど君が言葉に結す日の来る

吾(あ)を尊び守り育てし君の名を齢十九で呼び清められ

煩雑なるDNAの結び目を解きて新たに繋がれし君に

"Hold on"に耐へかねた心臓(むね)に刺さるうた苦難に幕引く凱旋を待つ

To unlock the key of the journal that I lost,
I'm looking for you. 未だ鳴りやまぬブリキのシンバル

朝二時の鐘は鳴らざれど吾がこころ開きて御言葉求むる

些細なる人間世界の綻びを縫ふ針に非ず君の御国は

疲れたる霊慰めし給水所ひかりを呷りて吾等進まむ

紀元前イザヤは知りけむ人類の帰還にひらく君の腕(かひな)を

埋もれし泥探る手のさかづきに幾多の傷より葡萄酒の落つ

夥しき孤独を焼きて帰らむと生(あ)りける君の名救済を負ふ

数へきれぬほどの咎負へど恩恵に味はふ刹那の無罪(イノセンス)

石膏を割りてそそぐは君の手の蒸留したる油ひとしずく

砂糖の味よりもはやく君を知り迷路のさきでやつと触れけり

三人の奏づる賛歌を濡らしをり見えざる千の御使ひの声

迷ひけるふたりを招き御使ひは雨の向かふで宴備へり

口唇と舌を燃やして無毒なるからだ捧げむかの日のまへに

吾ひとり往きしにあらずデイシスに血潮の鋳ける金掲げられ

投身のからだを撫づるナルドの香肉は破れていのち溢るる

収穫を待つ果実なり家のなき夫婦の目蓋を潤す涙は

信仰を貶めて立つ青年の沈める足許支へたらむと

石打ちにさるる覚悟もて西暦の黎明建てしひとのよろこび

責めまじとただ恩赦に頼(よ)る君の祈り凪に唱ふるは鈍くやさしき

感傷は汝の敵なり、刹那とて戯れざるべし、光に在れ、と。

地図を描く世界をはじめる言葉から君を見つけるまでの道のり