人魚姫
失ひつる鱗の代はりの肌のうへ滴の滑るを幾度も試しき
吾(あ)の乞ふはきみのみならずや太陽を空気を星を天国を
捨てし尾と同しき翠(みどり)の衣着て仄めかさむや言葉の無きに
姫の耳の真珠見るきみに教へたし魚の吾(あ)なら千も贈れむを
毒薬(ポーシヨン)は舞踏と悋気に疼きたり眼の潤む訳君は知らざる
管弦の奏づる円舞曲(ワルツ)は優しけれど沈没船の静けさを恋ふ
十五まで届きてふたつの世を見しもきみただひとり吾(あ)もただひとり
眠るきみ繋ぐは易し短剣をかざす両手は新しからぬに
情熱の渦に迷いの細波(さざなみ)きみの瞳は故郷に似けり
泡となり消ゆる人魚も三百の善行をもて天に昇れる
07/25/2010