衛星墜落
宮廷音楽を聴いた夜 橙の月を見る
侵される衛星は まるで疲れた爪
レオに現れた十字を玉座にして 君はこの鼓動を吸う
光すら君のためにある
橙いろの地で浴びた熱気は生物の肌と粘膜を焼きながら細かな砂を舞いあげた。仰いだ先の彩雲と淡い青に、静寂の存在が肥大する。地球影、夕日の帯、あの青暗い空気。新しい魂を乗せに、小さなヴァンは鳩のようにやってくる。
暗がりで飲んだジンジャーエール
出勤の午前二時
黒い生き物を避けながら足早に歩く ひび割れたアスファルト
蛍光灯は凶暴に網膜を突き刺して
赤い小箱のレーズンは空の胃に落ちて消えた
夜明けの解放 始まる10時間
ベーグルショップの開店を待つ寝惚け眼の狐
ハミングから始まる歌は切なくも希望に満ちた詞をのせる
夕映えの自転車 指輪 檸檬の香り
二酸化炭素の泡に包まれては弾ける部屋
ふたりだなんて嘘だと思った
曖昧な境界は何もかもを透過させて
彼の強さを私の強さにする
吐息の靄を掻き消しながら 5秒毎に縫いとめた生命
子どもの無邪気さで時計の針を止めて
ひどく正直で満ち足りた架空の永遠
偽りはなくとも、間違っていた
噴霧される水をくびすじに浴びて冷凍庫に駆け込む灼熱
電磁の海原を泳いで出遭う数奇な液体
“白リス”に垂らすsyrup、extra shot
人々の脳は乾ききって仮死に震えている
連続殺人犯の悲哀を想いながら
刃(やいば)はビスコッティのように錆びついて砕けた